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旅 第４話
260 名前：◆NBJATnhEhM[] 投稿日：2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988 [1/78]
一本の折れた剣を草むらで拾った。
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一本の折れた剣を草むらで拾った。
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261 名前：◆NBJATnhEhM[] 投稿日：2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988 [2/78]
それ以来、私はずっとその剣をいろうている。
くるくる回してみたり、素振りをしてみたり。
あるいは片手で持って剣舞を踊ってみたり。
本来あるはずの刀身が半ばで失われているのがなぜか面白く、
空気で出来たやいばを持って踊っているような気分になった。
一度など、野盗に襲われた時、本気でその折れた剣で戦おうと思ったほどだ。
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262 名前：◆NBJATnhEhM[] 投稿日：2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988 [3/78]
私は大地に折れた剣を突き刺し引き抜くということを何度も繰り返した。
大地に腹ばいになり、立てた剣の柄にフーッと息を吹きかけた。
また買ってきた鞘に折れた剣を収めると、鞘ごと体に縛り付けて、湖に入って泳いだ。
真ん中まで行って浮かんでぼーっとしていると、いい気持ちになった。
上がってからは折れた剣で湖の水面を切った。
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263 名前：◆NBJATnhEhM[] 投稿日：2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988 [4/78]
全身を乾かすために火を焚くと、その傍に剣を突き立てた。
残った刀身に火が映るのを眺めて、私は長い間過ごした。
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（ノメ'ﾄf //けi」（ノ'(ツハ）ﾄ)三≧
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264 名前：◆NBJATnhEhM[] 投稿日：2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988 [5/78]
その翌日、水銀燈から離れて一人で森の中を歩いている時に、私は一人の女に出会った。
両腕のない、全身真っ白い肌と長い灰色の髪をした女である。
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265 名前：◆NBJATnhEhM[] 投稿日：2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988 [6/78]
私は女に挨拶をし、どこからやってきたのかと尋ねた。
女は無言で顎をしゃくって私を招き、森の奥の家へと導いた。
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266 名前：◆NBJATnhEhM[] 投稿日：2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988 [7/78]
家には真ん中に切り株を据えたテーブルがあり、老いた蛇が隅でとぐろを巻いて眠っていた。
女は切り株の上に座り込むと、器用に、そして何より優雅に、
足だけを使って酒瓶を掴んで持ち上げ、空の杯に中身を注いだ。
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267 名前：◆NBJATnhEhM[] 投稿日：2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988 [8/78]
「ん。」 とだけ女は言って私に酒を勧めた。
私は勧められるままにそれを飲んだ。 白く濁った液体で、独特のきつい発酵臭が鼻腔に広がった。
強い酒で、味はよく分からなかった。
女はすぐに杯を乾かしてしまうので、そのたびに私が酒を注ぐことになった。
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268 名前：◆NBJATnhEhM[] 投稿日：2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988 [9/78]
それから長い間、お互い黙ったまま酒を飲むだけの時間が過ぎた。
日の沈んだ頃、女が突然私に話しかけてきた。
「剣を出してみろ。」
私は驚いて、何を聞かれているのか咄嗟には分からなかった。
しばらくしてから、迷いはしたが、私は普段使っている方の剣ではなく、例の折れた剣を女に見せてみた。
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｀ヽ. / / ／ ｉ | | l |
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ﾊ. ﾑ '. ! 弋::::::rノ ＼| '{乃ﾃﾌ7| / /／
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269 名前：◆NBJATnhEhM[] 投稿日：2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988 [10/78]
女は受け取った剣を穴が開くほど見つめた。
それから長い長い間、静かに息を吐き出した。
「お前はこいつの再生を望んでいるのか？」
私はできることなら、と答えた。
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270 名前：◆NBJATnhEhM[] 投稿日：2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988 [11/78]
「この剣は強すぎる力を行使することを恐れて、戦いのさなかに自ら折れて、主人からわざと捨てられることを選んだ物だ。
お前はそれを再生しようとしている。 どういうことか分かっているのか？」
私はそれを聞いて、自分は知らなかった、剣に対してすまなく思うと言った。
実際に声に出して 「剣よ、ごめんな」 とつぶやいた。 するとその様子を面白く思ったのか、女は自分がこの剣を
鍛えなおしてやろうと言い出した。 ただし刀身はここにある複数の剣の中から選んでもらう。
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271 名前：◆NBJATnhEhM[] 投稿日：2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988 [12/78]
女はそう言って私に三本の剣を紹介した。
一つは輝くほど見事な直剣で、一目見ただけで分かるほどの名刀だった。
次の剣は優雅な曲線を誇る刀で、おそらくは東の国からやってきたのだろう逸品だった。
思わず手に取って振るってみたくなるほどの物だ。
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272 名前：◆NBJATnhEhM[] 投稿日：2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988 [13/78]
最後に紹介されたのは黒い色の刀身をしたとてつもなく太い大剣である。
しかしそれは半ばで折れていた。 おそらく折れていなければやいばの部分だけで人の身ほどはあったろう。
無骨な剣で、柄に飾り気は何もなかった。
人から愛されることを諦めた人のように、その剣は何らの表情も作ってはいなかった。
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273 名前：◆NBJATnhEhM[] 投稿日：2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988 [14/78]
私は最後の剣に決めた。
これがもっとも自分に合っていると思った。
なんとなしに部屋の中を見渡すと、隅で老いた蛇が寝ているのが目に映った。
なぜ合っていると思うのかと女は私に尋ねた。
そこで私はサクラについて語った。 彼女と愛し合った日々と、その別れについてである。
もし彼女がまだ生きていたら、自分は二本目の美しい曲刀を選んだろうと言った。
しかし自分の半身である彼女が消えた今、ふさわしいのは、どこまでも折れた剣に違いないと答えた。
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274 名前：◆NBJATnhEhM[] 投稿日：2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988 [15/78]
少しの間があった。
女は無言のまま頷いた。
どうやら鍛えなおしてもらえるらしい。
私はやがて切り株の上で眠り込んだ。
眠りにつく前脳裏にあったのは、そう言えばまだこの女の名前すら知らないのだなということだった。
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275 名前：◆NBJATnhEhM[] 投稿日：2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988 [16/78]
朝になった。
隅の蛇はすでに起きており、与えられた穀物をその場で食べていた。
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276 名前：◆NBJATnhEhM[] 投稿日：2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988 [17/78]
女は自分はシルヴァというと名乗った。
それから顎でしゃくって扉の前にある剣を示した。
私はそれを手に取って抜いてみた。 どうやら再生された剣らしい。
剣はもとより長く、切っ先が鋭く整えられていた。 刀身は黒く、鈍い光を放っている。
女は寝ている間にこれを鍛えなおしたようだ。 しかし両腕のない身で一体どうやって？
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277 名前：◆NBJATnhEhM[] 投稿日：2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988 [18/78]
私が首をかしげている間に女は外へと出て行った。
私が後を追って出ると、女は森から出て川沿いに歩き、現れた橋を渡り切ると、
さらにしばらく歩き、ある集落までたどり着いた。
まだ朝日は昇り切っておらず、外を歩いている人もわずかである。
その日は霧が濃く、女の着ている物が濡れて体にはりつき、美しい脚の形を浮かび上がらせていた。
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278 名前：◆NBJATnhEhM[] 投稿日：2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988 [19/78]
女は民家の玄関の前に立つと古い失われた言葉で呪文を唱え、小さな木の人形につばきを吐き掛け、
それを扉の前に置いた。
すべての民家でその行いを繰り返すと、女は集落を立ち去り、自分の家まで戻ってきた。
＿
r'´ ｀ヽ.
i ',
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r'´ ,r 'i´￣￣｀i'ヽ、 _,,）
ゝ､＿i |● , ●| i'¨ヽ
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ゝ､__,ノ ゝ､i｀Ｙ∀Ｙ.ﾚ' ｀ー‐'ﾞ
./´. ¨ ｀ヽ
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/´ ｒ‐ i_,.､-､､Y,.,..,__ ,ﾉ i ＜´
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!/レ'´i,.ｲ｀ﾄ.,ｒ'l ,.ｒi｀ﾄ. ,ヘ.i´
,ｒ'''7ﾞ./、 ,r.i .ト､
〉､_ｰ'_ﾉ i. _'ｰ'_,）
/ ¨ｒ' ｀i ¨ ﾞ',
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ヽ､＿,/ '、 ,）
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279 名前：◆NBJATnhEhM[] 投稿日：2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988 [20/78]
あの行為には一体どんな意味があるのかと尋ねると、女はこう説明してくれた。
あれはその家の穢れを吸い取って、つばきを介して木の人形に封じ込めているのだ。
ああした後、その家の家長が人形を踏んで壊す。
すると穢れは払われ、清められるという。
私は段々シルヴァのことが理解できてきた。 彼女は神の一種なのだ。
しかしそれゆえに特別視され、遠ざけられている。
村は彼女を外れた場所に住まわせて利用しているのだ。
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280 名前：◆NBJATnhEhM[] 投稿日：2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988 [21/78]
さて、私はシルヴァに礼を言うと、黒い剣を携えて家を発ち、水銀燈と合流した。
そうしてまた元の二人旅が始まった。
,. -ｭ,ﾆニ弌垳ト､
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/!７ト､7′ 〃 ｌ ヽ ヽ
、 / l//L｣| ∧ｌ | ! |l ｜ ! ヽ
|:l / 〃 ||丁l トH､lV| |l /l } l |
ヾヽ / 〃 |l | ｌ抔卞｀ヽ{ /-ト/ //ﾘ
＼ ヽ:∨ |」 /ｌ| ｌﾄヽ￣ ﾚ'戎ｼ' ／ ′
⌒ヽ!ヽ._j＼＼ / 八 |ヽ __ ' ∠r1=彳
::..::..::..::..::..｀::..::ヽ/ ﾊ ヽ‐ >､ ,. イ| }::..｀ヽ、
::..::..::..::. ／⌒ヽ､ヽjノヽ.∨r 芥､/:./ /::..::..::.､＼
::..::..::.::./:.:.:.:.:.:.:.:.:ヾ⌒Tlヽ｝l,ハ/-/ 〈::..::..::.｀ヾ＼ヽ
::..::..／:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:∨_ || ヽ:ﾚ':.:ヽ::..::..::.くヽ.j
::.r'´.:.:.:..::.:.:..:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.∨_ ||ｰrﾍ.:.:、:.:.＼ヽヽ:〉
仆､ :.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:. ∨_l〉 ri心:.:',:.:.:.:.:ヽ｝
′ ＼_.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.: ∨_ ゞ=仆ヽ.:.:_ノ
, 〉个､:.:.:.:./.:.:.:.:.:.:.:.:.∨_ ｌ }〉:.}'´
| く_/^ﾄ､>:.∧:.:.:.:.:.:.:.:.:. ∨_ﾘ 〈|:.ハ
| //:.:.:||:.:./ ヽ.:.:.:.:.:.:.:.:.:.∨┐r':.:{ ､ヽ
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281 名前：◆NBJATnhEhM[] 投稿日：2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988 [22/78]
それにしてもさずかった黒い剣は、絶大な力を有していた。
西の山奥に人をかどかわす妖怪がいると聞いたら、我々は率先して山を訪ね妖怪を退治した。
あやかしは剣の一振りであっさりと滅びた。
東の湖に人を引きずり込んで溺れさせる魔物がいると聞けば、乗り込んでいって斬り殺した。
＿ ＿ _,
ヽ ＼ ＼｀ヽ ,ｲ ／/
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i i弋_ヽ,ィ｀ｰ┴-ゝ〉_ / ト､
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{ﾆ＞─‐' ∠ `ｰ─-'｀ヽ-'｀Y |
rf´ /ｰ─ / ｀ヽ,＿_,,. -‐'ｰｪｧゝ ＿_丿
｀＞ ゝ _ _ノ ＿＿＿＿_ﾉl＿＿＿i
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､ l_ i iﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆゝ'ニ' / .!/
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282 名前：◆NBJATnhEhM[] 投稿日：2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988 [23/78]
魔物たちはいずれも黒い剣の前に造作もなく滅びていった。
そうして我々は魔を倒す請負人として名を馳せていった。
我々自身が悪しきものの一種であるというのに、皮肉なことである。
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:／ | |:::/ ＼ / / / ／; ヽ |
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八 | ＼ | | / | ﾄ､ | |
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l | |:::[ ＼ / 厶 |ｌ ￣|￣ 丁¨¨Τテ卞､ |l /＿〉 |
l l /:|:::|l、 ＼ { { ＼､ | ヽ ＿し:::丿 /､了] ∧ |
l | |::|:::|/＼ 人 ゝ ^八 | ＼| / ＾
l | |::|:::| ＼ ＼ ＼ ヽ′ /
l | |::|:::| ＼ ＼＿ ノ ＼ ！ / /
l | |::|:::| ＼ 八 /∧ ト }
l | |::|:::| ＞/ ∨ ＼ -―― - ,
l | ∨::j ∧ / ／| ′
| ∨ / ヽ ／ | ／| ｀
|ヽ _／ ､ レ | ／| /＞ ／
/ ） / ヽ ＼ レ |′〉 ‐
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l/ ／ 、 ＼
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283 名前：◆NBJATnhEhM[] 投稿日：2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988 [24/78]
さて、ある時、我々は疫病が蔓延して滅びたばかりの町へとたどり着いた。
生きている者はただの一人もおらず、民家をのぞき込んでも、いるのは寝台の上に横たわった死体ばかりという町である。
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从从从从;';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';'｀Ｙi'"~ : : : : : : :爻刈ⅰ |_..|Ｉ Ｉ | Ｉ Ｉ Ｉ |ﾐﾐﾐﾐ￣乂;';';';';');';';';';';')xX爻爻淡淡淡淡淡淡淡淡
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284 名前：◆NBJATnhEhM[] 投稿日：2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988 [25/78]
我々はさっそく死体を集めると、それらを焼き、墓穴を掘って埋めるという作業を始めた。
大量の死体は焼くだけでも大変だった。 我々は全身煙まみれになり、汗だくになった。
それでもその作業は続けられた。 焼いている最中に、二つに一つは頭蓋骨は割れて粉々になった。
それから空いた民家を掃除し、きれいにして回った。
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285 名前：◆NBJATnhEhM[] 投稿日：2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988 [26/78]
すべてが終わる頃には町はすっかり綺麗になり、まったく空っぽになった。
寂しさの極致のような光景である。
ただの更地よりも、人を住まわせる家があるのに誰もいないという方が実に虚しいものだと思う。
我々はしばらくの間適当な民家にとどまって日を過ごした。
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286 名前：◆NBJATnhEhM[] 投稿日：2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988 [27/78]
我々は疲れていた。 疲れ果てていた、と言っていいだろう。
ここのところすっかり活動的になって魔物どもと戦ってきたこともある。
何十年も漂泊の旅を続け、どの町にも定住することなく、日々をさまよい続けてきたこともある。
一度足を止めてしまうと、誰からも顔を見られず誰からも影のないことを咎められずに済むことに、
我々はすっかり居心地のよさを覚え、離れられなくなってしまった。
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287 名前：◆NBJATnhEhM[] 投稿日：2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988 [28/78]
このまま誰もいない町の影の住民となって、ずっと死者たちと共に過ごすことになるのだろうか。
それもいいかもしれない。
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, ／/ _,, -'' ノ
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,' | ,' /／ -── '' ´￣｀''ｰ- 、
l .l/ ´ -ー─-- ,_ 、 ＿＼
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'／ ,, -,ー─rl| ! __.,,＼丶-ｰ- ≧､＼ヽ ＼ ＼､ニ ､--' ''
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_,, ／ ,: ,./ ／ , ' |j ｀' ､l＼', ヽ ヾ, ヾ ',､＼ヾ
､二二,-' /／ { / ／ ' ヽ ! |丶 丶 ＼ i ヽ ヽ.
.｀ ー -/ /' ,' ./ 丶|_ l. ', ｀, :.ヽ.＼ 丶｀ｰ-
￣/ / / ,' 丶 丶 ﾊ＼| l. l :. ヽ､＼ ヽ,
/ , ' ! _,i-' | i ヽ ｀ ､ iヽヽ | | :. ﾔｰ｀=+--
/ ,' | ,' l ', 丶、ヽ ヽ | ', |i. | ! |. | :. i丶| .lヽ|
',/ l l ', ', ｀,丶、 丶 i ', .l ', .l' l ﾘ ﾉ_iー-! ヽ､ｌ '
|' ',i | l i ヽ ､ ヽ／ヽ、ﾊ ,ｼ!ヽ! | | |. /lｵｰ’ ＞ｰ,. -ーｔ-+ ､
, ' | ', , ヽ' , '／ ,X-,_| ', |',. |ﾘ <./ i ／ ／ ￣｀ ' ｰ ､
/ | ! l l 丶 i ヽ ',,,／辷ソ i. j !| ,ｒ'ｰ' , ' , ' ＼_
' ／',| l ', ! | ヽ、 ', .i l iー ´ l/ ' ｀l> / _/- ＼
ﾉ／ / ,'|, | . i ',. l __ヽ ', i| ﾉ _＜-ー ''´ ＼
´ // ,' l l ｌ ',. ﾔ／,-' _;ｰ､ |:. , ''´ ＼
／ / ,' | | ', ヽ ', ヽ／込,iヽj ､ ::.. ／_ -ー _
_ ／_, -/ ノｌ∧ ', ヽ __.,､'､个辷／ ー /' ｀ 、
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288 名前：◆NBJATnhEhM[] 投稿日：2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988 [29/78]
私はある朝、外に出て村のはずれの荒野まで歩いて行った。
草の一本も生えていない、強風の吹く荒れた土地である。
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289 名前：◆NBJATnhEhM[] 投稿日：2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988 [30/78]
私はひときわ高い丘まで登ると、黒い剣を抜いて、みずからの首筋に押し当ててみた。
もしこれが魔を打ち払う剣ならば、自分のことも簡単に殺すことができるはずだ。
私は意を決して剣を握る手に力を込めた。 刀身が食い込み、首筋から血があふれ出してきた。
私は何度もそこで、さらに力を込めようと試みた。 そうすればあらゆることから逃げ出すことができる。
生きていることから。 というよりも、これから先、何十年も生きていかなくてはならないということから。
// ／ヽ、 ＼ 丶、 ヽ ＼
l/ , -' ´￣￣￣｀丶､ ＼ |＼｀､
/ ／, -─- ' ´￣｀丶､ヽ. | | |
/ / /／ ＼ｌ | ｜/
／_/ l/ ／ | ヽ ＼l/
ｨ彡三ﾐヽ ' ´/ // / / | ｌ ', ＼ ./｀ ｨ彡三ﾐヽ
彡'⌒ヾﾐヽ | /|｜｜ / ∧ ｜ﾄ、 ﾄ､ ､ ﾄ､ |`ｰゝ ー彡'⌒ヾﾐヽ
ヾ､ l/｜| |l | /_| / | |｜l l ヽ| ｜l | /
＿ ｀ー―' ∨ ｌ| ｜/ l/￣ | | ∨!/￣| /｜| l/ .｀ー―'
彡三ミﾐヽ | 从 |丈匸入 ヽ ﾄ､!下丁l / /l/ 彡三ミﾐヽ
彡' ヾ､ ＿ノ ｜∧ ＼ ヽ ＼! ￣ /イノ ＼＿ ヾ´ ´ミ
｀ー ' l/ Vl/>､!il|i ｨ! U / ｀ー ´
,ｨ彡三ﾆﾐヽ ＿_ノ /,仆､ ／ ,ｨ彡三ﾆﾐヽ
彡' |∧l l /丶、 ´￣｀, ィ´l〉, ミ'
＿ ＿＿ ノ .|l // |＼/ l＞‐イ∧／/ ＿
,ｨ彡' ヽ >へ、 _,. -く ,ｨミ'
ﾐ三彡' ／⌒ ,. ‐'´ ｀丶､｀￣￣´_,. ‐'´ ｀丶、 ﾐ三ミ'
ｨﾆﾆ=- ' ., ．‐' ´ ｀￣￣´ ｀丶、 ｨﾆﾆ=- '
,ｨ彡' ／ ＼ ｀ミｨ,
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290 名前：◆NBJATnhEhM[] 投稿日：2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988 [31/78]
迷いが続いた。 刀身も首筋も、その位置を寸分も違えずにただ静止していた。
できなかった。 私は剣を降ろすと、今度は腕を浅く切ってみた。
そこから血が流れる。 私はそれでよしとすると、丘から降りて、誰もいない荒野を歩いて行った。
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291 名前：◆NBJATnhEhM[] 投稿日：2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988 [32/78]
変わり映えのない光景が続いた。
私はひたすら黙々と歩いた。 何も考えてはいない。 ただ歩いているだけだった。
やがて太陽が高く昇るころ、私は大きな穴に出会った。
小さな村なら丸ごと収まってしまうほどの規模の穴だ。
それはどこまでも深く、うつろだった。
中を覗き込んでも、底を見ることはできない。 ただ深淵の暗闇がこちらを見返してくるだけだ。
: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : _,,,.. -ｰ: : : :ト､: : : ､: : :.｛: : : : :‐-､ : : : :Y: : : :ヽ;_;ノ: :: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :
: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :-､: : :／:Y: : : : : : : :ヽ: : : ＼;_;_;_;_;/＼: : : : : : : :／-‐ ''" ＼: :^'～ ..,,: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :
: : : : : : : : : : : : : : : : : ,: : ;_;_;_;_;／ : : :|: : : ‐-: : :∠ﾌ― '": : : : ｀ー--‐, ' :ヽ;_;ノ: : : : : :- ､、: : : : : : : : : : : : : : : : : : : :
: : : : : : : : : : : : : ,,／″／ : : ｀ー--' ＼;_;_;_;ノ: : : : |: : ＼;_;_;_;_;/＼: : : : : : : : |: : : ‐-: : :∠ﾌ＼: :-‐ :/ ｀ヽ､: : : : : : : : : : : : : : : : : :
: : : : : : : : : : :ヽ;_;ノ: : : : : :/l: :;／ ｰ'''"三三三三｀ー-┴― '"三三三｀ー--‐, '三 ＼;_;_;_;ノ´三三 ヽ;_;ノ: : : : : :｀ヽ、: : : : : : : : : : : : :
: : : : : : : : ／'" ＼: :-‐ :/: |:/三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三 " ＼: :-‐ :/ ヽ: : : : : : : : : : : :
: :_; -:.V: : : /:.:.: ,,／″三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三｀ヽ､;ノ: : : : : : :〉┤: : : : : :
;_;_;_;_; ' -‐ ''"7／゛三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三＼: : : :;／: : :: : : : : :
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―‐-く : : : :/三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三-､_; : /:: : : : :
: : : : : :.＼:《:三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三｝': : : : : :
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292 名前：◆NBJATnhEhM[] 投稿日：2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988 [33/78]
ここに飛び込んで死のう。
私は自然とそう思った。
また迷いの時間が続いた。
本当に死んでいいのか。
思い残すことはないのか。
意を決して助走をつけては寸前で思いとどまるという時間が長く続いた。
|:ｉ:i:i:i:i:i:i:i:i:| !:ｉ:ｉ:i:i:|
|:ｉ:i:i:i:i:i:i:i:ｉ:! ∥:i:i:i:ｉ:',
ﾔ:ｉ:ｉ:ｉ:ｉ:ｉ:i:i:l !1ニニ!!
ﾔ:ｉ:ｉ:i:i:i:i:i:l ｌ:|:i:ｉ:ｉ:ｉ:ｌ:!
ﾔ:ｉ:ｉ:ｉ:ｉ:i:i:ｌ 圦:i:i:i:ﾘ:!
ﾔ:i:i:i:i:i:i:l !::::￣::::|
ﾔ:ｉ:i:ｉ:ｉ:i:ｌ ! :::::::::: |
ﾔ:i:i:ｉ:ｉ:iｌ ', :::::::: ﾘ
ﾔ:i:ｉ:i:i:l ﾞ＝ "
}:ｉ:i:i:i:i{
i!:ｉ:ｉ:ｉ:i:ii!
!Iﾆニﾆil
!',:i:i:i:i:i:!!
圦ｉ:i:i:iﾘ:!
i!::::￣::: ',
',::::::::::::: }
ﾔ､＿_.ｲ
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293 名前：◆NBJATnhEhM[] 投稿日：2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988 [34/78]
助走を繰り返すうちに、段々私は馬鹿らしくなってきた。
考えていることが面倒だ。
もう何も思わなくていい。 思念を消してただ走ろう。
そしてある時、あらゆる望みや責任感、そして面倒であることすべてが肩から浮き上がり、
空中に霧散していったその時、私は跳び上がることに成功していた。
己の身が穴の暗闇に吸い込まれる――
そう思った瞬間、私の意識はどこかへとかき消えていた。
ニニニニニニニニニニニニニニニニニニニニニニニニニニニニニニニニニニニニニニニニ
ニニニニニニニニニニニニ＝― ￣￣￣￣￣￣ ―＝ニニニニニニニニニニニニニニニ
ニニニニニニニニニニ＝― _,.斗*''"´ ―＝ニニニニニニニニニニニニニ
ニニニニニニニニ＝― _,.斗*''“ ―＝ニニニニニニニニニニニ
ニニニニニニ＝― _,.*''“ ―＝ﾆニニニニニニニニ
ニニニニﾆ＝‐♂ ,*'' ―＝ニニニニニニニ
ニニﾆ＝― ♂'' ,' ―＝ニニニニニ
ニﾆ＝―,〆 ,*′ ,..｡gぇ*∽宀冖“⌒´"''*s｡.,_ _ ,..., ＿ ―＝ﾆﾆニニ
＝― ξ'' ,.ﾒg*ﾟ’ ,..｡g∽冖“"´ _,.｡ *'''"´"''*,, ¨￣´´"～､、ニニ
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294 名前：◆NBJATnhEhM[] 投稿日：2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988 [35/78]
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295 名前：◆NBJATnhEhM[] 投稿日：2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988 [36/78]
目が覚めた。
私は穴の底にいた。 どうやら死ぬことはできなかったらしい。
起き上がると、すぐ傍に髭づらの老人がいて、お前は今からこの穴の底をぶち抜いて、
ここを 「永遠に続く穴」 にしなければならないと言った。
私は血を流しすぎていて、物を考えることができなかった。
頭がぼうっとしていて、思念は漠然としていた。
＞ '' ´￣ヽ
／ ＿_/
/ ﾏ/ﾑ
/ ´￣￣｀ ､
,ｲ/ / " ヽ
/ / / ＿ Y
/ / l ￣｀ー'´￣ !
Ⅳ ,x-j ／⌒ヽ 〃⌒＼ﾚ-、
| ｌ ! ﾌ'／＜・》} {《・＞ヾ ＼}
＼〉'／! ´^'''´/ ∨`'''^ ﾄ､ ＼
／,ｲ｀¨',／{__,ゝ､__ノ､_}＼/¨´ﾄ､ ヽ
ｌ/l ,' ： } ,人 { ： | '
从＿,ｲ从/l／ ＼lヽ从＿ﾉ |/
_／,ｲ ゝヽ__
_,. ´ |: : :.} / / | | ヽ {: : :| ｀ｰ _
r '' ´ ∨: 从 从: :/ ｀ｰ _
| ∨: : :.ヽ / : : /1 i、
∧ ∨: : :.∧ ゝ--' ! ｉ i
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296 名前：◆NBJATnhEhM[] 投稿日：2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988 [37/78]
鍛冶屋が使う槌をもっと巨大にした物を渡されると、私は言われるがままにあちこちをその槌で叩き始めた。
すると次第に穴の底はひび割れてきて、大きな亀裂が走った。
さらにその亀裂を叩き続けると、凄まじい音が鳴り響いて底が抜けた。
私は落下していた。 一緒に老人も落ちていた。
暗黒のなか落下はいつまでも続き、いつ終わるともしれなかった。
やがて落ち続けることに疲れてくると、私は目をつむった。
早く眠りにつきたかったのだ。 だが、できない。
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297 名前：◆NBJATnhEhM[] 投稿日：2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988 [38/78]
落下している最中に、私は大きな鏡が自分の隣にあって落ち続けているのに気が付いた。
鏡を覗き込むと珍しいことに私の姿が映っていた。 遠い昔影とともに、鏡像もまた失われたはずだったのだが。
私は今度こそ自分を殺そうと思い立って、持っている黒い剣を抜いて、力を両腕に蓄えた。
しかし地面がなく、踏ん張ることができないので力が溜まらない。
どうしようかと思って辺りを見渡していると、老人が不意にその姿を変えて、優しい顔をした、あどけない少女になった。
「私が今からあなたを思い切り押しますから、その反動で好きなように剣を振るいなさい。」
,ｨﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆヽ
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298 名前：◆NBJATnhEhM[] 投稿日：2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988 [39/78]
「えいっ」 という可愛らしいかけ声と共に私の背中が押された。
私はその力を利用して剣を振るい、鏡に映った自分自身を切りつけた。
鏡は割れ、乾いた音と共に鋭いガラスの破片があたりに散らばった。
するとそこで永遠に続くはずの穴の、その上方から陽光がさっと差し込んできて、穴中が光に充ちた。
光は私の全身に降り注ぎ、散らばったガラス片に降り注ぎ、少女の全身に降り注いだ。
ガラスは光を散乱させ、きらきらと光り輝く星となってあたりを満たした。
私は輝く星に取り囲まれた中で、少女の顔を見つめた。
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299 名前：◆NBJATnhEhM[] 投稿日：2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988 [40/78]
少女は幼い頃のサクラの顔をしていた。
まだ私が出会う前、自分が犠牲になる運命を知らなかった頃のサクラだ。
サクラは何者にも囚われない自由な表情をしていた。
生き生きとしていて、生命力に満ち溢れている。
私はその顔を見て 「まだ生きていよう」 と思った。
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､:. :. :｀7⌒ﾞﾏt. :. :. :. :. :. :. :. ｘ匀ｯ-､}^´: :. :. }
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300 名前：◆NBJATnhEhM[] 投稿日：2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988 [41/78]
そこで夢は覚めた。
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301 名前：◆NBJATnhEhM[] 投稿日：2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988 [42/78]
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302 名前：◆NBJATnhEhM[] 投稿日：2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988 [43/78]
起き上がると私は暗黒のただ中にいた。
体を動かしても何も見えないので、頭は混乱をきたした。
まさか目が見えなくなったのか？
いや違う。 自分は今度こそ本当に穴の底にいるんじゃないか。
私はそこで頭を上方に向けると、わずかに光が差し込んできているのが分かった。
やはり穴の底にいるのだ。
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303 名前：◆NBJATnhEhM[] 投稿日：2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988 [44/78]
私は壁に手を付けて一周してみた。
やはり周りは急な壁に取り囲まれており、出口はないようだ。
ここは本物の、ただの “穴” なのだ。 谷間ではないし、出られるような坂道もない。
自分の顔が青ざめるのがよく分かった。
それで私は、今度は壁をよく調べてみた。 登れるようなとっかかりはないだろうか。
だが残念なことにそのようなとっかかりは見つからなかった。 壁は無情なまでにつるつると平たかった。
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小 ‘, V:ｉ|ﾊ |!.i、 i|,' !|: ｌ:|{ Nｉ| .:|:::/::I: :! : 勹.ｉ:|::{::| ﾉ.:.:! ﾉ ゛i´{::l,::ﾉ^iハ: | }::ｉ
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.1.,' jl: :ﾊ:!| ,! ::|! ,ﾊ､｜: ,|:.､八ﾞ;!:|! .:|::}::;':ﾍ:. ::l.,′ﾉ !:八:!| { !〉 j ﾘ /i yﾞ:;ｉ |:::!
冫}ﾉ!:.:j::|ﾘ !.::::|ﾚ.:.:.:y|..:!,':|:ノ.:.: ﾄ,:|!.:ﾉ.:{::!:.:..:}: : ! . :.: ,:' /:j ! } | ,:| {_ノ :| ,゛ i:ﾄ.|:::､
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'.斗ｲ:|.:.:|!: ﾄ､:::|!::.:.:Yハ.: |ｌ:. i :ｌ!.: }{:.;'ｲ.:ﾞ ′;:i:|:{:::: ;:ｿﾞ .ﾘ .: ﾉ ｛ﾞ ｲ 〕 ﾉ j::|:八ﾉ |
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I! ;}! .」 ;|.:.:| ｌ :ﾄ､ﾊ、,ﾞ ./:|:.:.ｲ,' |!:; Y }兆 〈{ j,:.ﾉ .:::;:i|｜ ,i,: .:j :|! ｉ | .:! {:!:.ｌ :|
ﾊ,|! .|〕 八:::| ｌ :| j :iV ,'ﾊ::|:.:.:!l |: 」ノｲ { ,}! ,iI:' .:.:j::l|ハ,/.{:;:::{ :|ハ :| ::! Y.::! :|
:.N!.:.|!,:' 、ﾄ;| ｌ :|'.,ｲ { {:! l::|:.:ﾞjj _,|:√, j .ﾊ ﾄﾞﾍヽ .:.:i|::ｌ| ﾉ .ｉ|::::f :ﾊ::i|｜./ l::::i |
:.| !:.ﾞ|f!、j.:|;1 l :|,ﾞ 〉ハ:､j::|.:.:|| i:}: ,′斗小.`､:.'. ゛ .:.:.:l|::ﾘ,:′ ﾊ::! }:::Y ﾉ,::{ !:::ﾊ |
小､:.|j|.:ｲ.::|;| .! :| ,i |i :! { :.|:.:.}!,:'ﾊ i| ﾉ'ﾞ＾冫|i:.:. .:.:.:.:|;:ｲ .′:!､ﾉ＾iI {/:::} }人l i|
仆y |!I:;:|.:.:|:| l! :|ﾍ､|!.;} { :.|:.;' {,ﾞ !:| ,:´ / |l:::.:.:..:.:.:.:|!ﾉﾍ j: .:トﾍ、{,/.:.:ﾉ |! ヽ ﾊ
ｌ |;ﾍ,|::}{:|:.ﾞ:|:ｌ |.:j|:. }i|.:! ,ﾞ .:|:j };...!:|ノﾍ、 ,ﾞ |l:.:.,:´ .:.:」!、 ﾞ､ j|:. . | }冫{ｲ::{ .:.:|! V ﾞ､
l ﾊ.斗{ﾊ!:. :ﾄl |:|:|:.,ﾘ|:.! : ..:|」 〕 ﾊ Y |l:.;ﾞ i/.:.ハ i| }!: ,:! ﾉ{::::ﾉ＾ｿ.:.:.:.:! /.:、i|
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',:ﾞﾊ ヽy.:.: .:|:l |:!|'.:! |:八冫|,: 〃 :′:ﾞ | .:.:|;′ ﾉ.:::::.|i {:.:ﾞ| 「ｉ:::;ハ{ i:| !:::::::::::! }!:::::{
304 名前：◆NBJATnhEhM[] 投稿日：2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988 [45/78]
穴には私のことを帰す気がないようだった。
血も流れすぎている。 もう駄目なんだと思った。
ただ、どうして落下した時に死ねなかったんだろうとは思わなかった。
もはや自殺する気はなかったからだ。
かといって、生きて帰る希望も今や尽きてしまっているのだが……。
/ / ｀
,′ } / ヽ
; .′ / ／}/
； { ノイ { ﾟ。
{ 乂 ／ ′＼ ／ ﾞ`ヽ
乂, 〃 !＼ 、
| ヽ {{ {、 ＼ / '.
| {{ '. ＼ 、 / ′
i| 乂__,∧ ア⌒ヽ ′ / }
八 ￣ ∨{ V ｛ / / ；
| ヽ ! 八 ) ∨{ /}／} .;′ / .′
|/' '. | ! ｉ。 ｀ ﾞi! ,N/-≠ } ; ≠
ﾉ } il | j ,r‐}｀ｰ '. 茨芹伃ﾉﾊ! ,ｨ筏i}
} 八 { / }:ﾘ ､ { ´ " ｀ 乂( ﾞ｀.' ／
ノイ ,. ' { {.′ ＼_, _, ≠イ
／ ＼￣{ 、 ___ ,.ｲ
／ ＼＼_ ` ¨,.ｨ升 ｀ヽ
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＼ i! .′ 。 } /
ヽ // ｡ﾟ ﾟ ｡ ! /}
i, !{/ 。ﾟ=‐-‐= ﾟ ｡ 八 ｛
i, }/ 。 ﾟ 匚匸}__} }ﾟ ）
'i, ノ 。 。 ﾟ .′ イ
305 名前：◆NBJATnhEhM[] 投稿日：2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988 [46/78]
私はその場で座り込んでじっとしていた。
どこからも音は聞こえなかった。
見える物も何もなかった。
体力が失われているために、思念も曖昧で、何も考えられない。
頭に浮かぶのは外の光景だけだ。
,ｲ ,ｒ－-ー＝≡=-＿
(（. // ／/, -ニ￣≪￣ー ､
,ゝr∠＝-ｰ''、- ､=＜＿ -＝＝＝＝- ､
, ' ー- _ ＼ヽ ヽ _ヽ=＝=ｭヽ ｀ヽヽ__.,
／ 彡_ =_≧、ヽ ! !´!-,｀ヽ ｀i |丶 ヽ､/
, <´ ｰ＜_, , ,ヽ ! ｌ 人'ヾ いi､〃 ヾ､ ,. - ─ ─ ─ー '' ﾞ￣￣〃ﾞ￣７ﾞ''ー-.､
/ ー ／ / ,∠ヾ i :/ 从 （､ヽ＾ﾐヽ ,' : : :_ _ ー─ : : : ／ : : : : )
i ｲ _＜, / i.,'/^-ﾟj j/ ヽヽミヽ.| ', ' : : : : : : : : ／ : : : : : /
ヾ_丶 ヽ￣ i. ｼjｔｰシ ヽヽ',､__j : 丶 ; _: _,.-─--､-ｭ／ : : : : ∠, -ー
! ￣｀ ヽ、 ! j ､ｭ": ; - ´／. . . . . ／ : : : : : : '.
lヽ ヽー--､ <´i ; : :／. . . ., - ´ : : : : : ; ' . .
! ヽ __ ゝ/ ,心,__' , ,' <´.i ,' : ∧ __, ー' -- : ,、: : , ＜ . . . . .
ヽl .､ヾ七 i辷i| ! /,r-<´!_,!-＜:￣: : : : : : :/: i , ' , -ー, __ ,／-
ヽ、;丶ｰ'ヤ'_ , ' ,-,'´ .,,_ ,ゝ─ ────-'＿:.i／ : : i＝='＿_, ｀ヽ
ヽ; _｀'' ー-｀'ｰ- -ｭi:.:'(. / i,. / ヽ: : : : : : i .
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ノ:ﾉ i-| 、 ｀ ｰ- :＿ : :
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306 名前：◆NBJATnhEhM[] 投稿日：2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988 [47/78]
上がりたい。
そう願いながら、私はじっとしていた。 何も起きないまま時は過ぎていく。
外。 荒野。 そして町の光景が頭に思い浮かぶ。
だが何よりも、太陽。
私は生きて帰れたら何をしようかと思い悩んだ。
頭に浮かぶのは 「もしも帰れたら」 ということばかりだった。
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307 名前：◆NBJATnhEhM[] 投稿日：2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988 [48/78]
じりじりと体力が奪われていくのが分かった。
自分は刻々と死に近づいている。
どうやら夜になったようだ。 上を見上げても光が漏れてこないことから、それと分かった。
時間の経過が分かることだけがせめてもの救いだなと思った。
圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭
圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭
圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭
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圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭
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圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭
圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭
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圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭
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308 名前：◆NBJATnhEhM[] 投稿日：2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988 [49/78]
もしも帰れたら何をしよう。 水銀燈に謝らなければなるまいな。
思えば自分は勝手に水銀燈から離れてばかりいる。 それは良くないことだ。
二人で旅を続けると決めたはずではないか。 何の目的も持たない受動的な旅ではあったが、
多分それなりに意味はあったのだろうと今では分かった。
人は独りきりでいると、死にたくなるのだ。
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∨ ゞ芥jヽ. { / r=ｧ:zr-j/_ ∨ /: /／.ｲi: :{:.:.:.:.:.:.:.ﾊ |、∧
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/ ｰ ７/ ﾍ: : : : ヽ:.{ : : | 从|
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309 名前：◆NBJATnhEhM[] 投稿日：2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988 [50/78]
朝になった。
もう息をするだけで精一杯だった。
喉が渇く。 自分が死の淵に立っていることだけが分かる。
自分は今からあの穴へ、行ったら帰れない底のない穴に落とされようとしているのだ。
そこに落ちてしまえば最後、暗黒の落下だけが永遠と続くことになる。
,竓-‐ … ‐- よ
＞也ﾞiｸ'i:i:i:i:i:i:i:i:i:,l|ﾂ". 〕iト㌣
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冶㍉ﾞﾏﾑ |i:i:i:i:i:ｉ:ｉ:l||' / ／ ,,-''"￣＿_.Ｎ
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. ＃.,,,＿i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:ヽ ＼i:i:ｉl l/ ,-'' ＿＿＿｀....ﾔ
ⅰi:i:ｉ:ｉ`守ミｭ､i:i:i:i:i:ｉ:ｉ:丶､ -‐'''￣￣''‐-=ﾆ=-､.... ｉ
！ﾞミﾆｭ､__ `ヾｭ､＿ ,,-‐ ￣｀丶､i:i:i:i:i:i:i:i:i:ヾ三ヽ.㍑
. ｷ.. ﾞﾞ''‐=三二ﾆ=-─'''"" ./l. ', ｀ヽi:i:i:i:i丶､＼i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:瓦
. 抓i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:ｉ:ｉ_,ｨ//i:i:ｉ| ヽi:i:i:i:i:iﾏ ﾑi:i:i:i:i:i:i:ｉ:ｉ彑
ﾑi:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:ｉ:/ﾆﾆ/i:i:i:ｉ:l| ﾞ､i:i:i:i:iﾞﾏﾆli:i:i:i:i:i:i:iﾊ
∧....‐-=,,,,___ _,ｨ≦ジ"i:i:ｉ,ｨl|' ,l|li:i:i:i:i:i'lﾆl,i:i:i:i:i:ｉ,勹
寸.....-=ﾆ三＞"i:i:i:i:i:i,ｨ≦l /|lli:i:i:i:ｉ:ｉ:ﾏﾑi:ｉ:ｉ,4
＼...￣i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:,ｨｸ / /l||li:i:i:i:i:ｉ:ｉ:ﾞﾏl 在
今ｘi:i:i:i:i:i:i:i:ｉ:,ｨｸ ノ // l|li:i:i:i:i:ｉ:ｉ:ｘ令
尖ﾄ 〔ﾞ≦/_,,／ {l{ '|l . 〕 ≪
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310 名前：◆NBJATnhEhM[] 投稿日：2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988 [51/78]
さまざまな幻聴が聞こえた。 色んな人の声がする。
中には水銀燈の声もあった。
水銀燈だけはひときわ大きく、高い声として響いたので、
それで自分はこんなにも水銀燈に会いたかったのだなと思った。
死の間際になってこうまで幻聴が聞こえるとは。
幻聴は執拗に続き、私の意識の隅をノックし続けた。
うるさい。 早く死なせてくれ――
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三三三三三三≧ｭ : : :！ |｜ ﾄ､ ニヽ ´ | | ｌ ; : : _r≦三三三三三三三三三
三三三三三三ア¨ 二二l l |＿ 厶ｲ＞､ ィ〔_ ＿_|_l ' /_∠二三三三三三三三三三三
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三ア¨´∠::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.ヽ ヽ::|}〉 ヾニイ ヾニイ 〈{|::/ /.::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.::...＼＼三三三三
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ｱ ヽヽ::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.::|}〉＞┬く::ﾉトr‐ﾍ::〉 イ「::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.ニ二´イ ∧三ｱ⌒ヾ
∧ヽ ::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.|}〉丶｜ ,」⊥、 /⌒〈{|::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.::./ / Ⅵ
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311 名前：◆NBJATnhEhM[] 投稿日：2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988 [52/78]
違う。 これは幻聴ではない。
私は残った最後の力を振り絞って舌を湿らせ、声を振り絞って応えた。
返事はどうやら水銀燈に伝わったらしい。
するすると、救いの蜘蛛の糸のように、上から縄が降りてきた。
私はそれを胸に縛り付けてから掴み、上から引っ張り上げてもらった。
私はそれこそ死ぬ気で最後までその縄にしがみついた。
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312 名前：◆NBJATnhEhM[] 投稿日：2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988 [53/78]
幸運にも力は続いた。
私は穴の外に引っ張り出されたところで気を失った。
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313 名前：◆NBJATnhEhM[] 投稿日：2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988 [54/78]
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314 名前：◆NBJATnhEhM[] 投稿日：2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988 [55/78]
私はこっぴどく水銀燈に怒られ、何度も謝るはめになった。
死にたくなったとは言えなかった。
もしもそれを言えば水銀燈が悲しむだろうと思ったからだ。
_ -==ィﾆ==ミ、
,. : ´ _,.てイ::::{{｛薔｝}}::＞ｘ＿
／ _r=:::::::／x=ﾁ>=彳＞_'_ﾌ￢､
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l ||￣てzzzミxヾ< l ', ,x==ミ ﾘ {ﾘ.|l { }'
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l ｜ | Y{ ヽ)) '､ '、 ´´ 〉.| |
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315 名前：◆NBJATnhEhM[] 投稿日：2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988 [56/78]
それよりも私は新しい考えに取り憑かれつつあった。
ここを自分たちの町として新しく建て直そう。
自分たちを迫害しない者だけを、どこにも行くあてのない逼迫した者だけを集めて新しい町と成すのだ。
私はその考えを水銀燈に打ち明けたが、賛同は得られなかった。
「上手くやっていけるとしても、最初だけよ。 人が増えれば私たちは追い出されるわ。
影がなく、鏡にも映らない。 必ずそのことは露見して、気味悪がられることになるわよ。」
＿ _r‐ー―--
{f包ｱ}ﾍ Y⌒>ー､ヘ ｀ 、
､-＜戈こィノ｀ﾞ"''＝ ,, 〉ｰ､ヘ ＼
／`ーﾍノｰﾍノｰﾍ r＜｀ﾞ"'' ,, 〉、ヘ ＼
∠ノ`ｰ'＾ｰ'＾ｰ'^ｰ'^ｰ弋メ､r＜ ﾞ",,⌒>､ﾍ ヽ
／ ＼ 弋メ､r＜",, 〈 ﾍ '
. ' ヽ ＼ 、 弋ﾒ、 ",, く_ 〉 l
/ ′ ' ', ｌ ヽ ヽ 弋ﾒ、,ｨ==く |
′ ｉ | { ｜ | | 斗- |、 ﾍ // 小ﾍヽ |
| ｌ｜| | '、 | | イ´ | | | ﾞ, ヽ ゞ='仆='ﾉ ｜
| ｜|｜ l ＼、 |／|/,,＞ ﾁ衫 |ｉ | |Ｖ⌒ヽ ＼ ｜
| |｜ヽ 、＼ ヾ | _/〃ヽゞ'ノ/ ∥ | | |'＾ヽ| 、 ﾄ |
ﾞ、 | |ｌ ＼ >ー＼ ﾉ/ ＾'´ / ﾘ /l ∥| 〉 ! ＼| ＼!
ヽ !八 |ヽィ<ｆr;､´ / ｲ l ｌ ; |' ノl |＼ |＼
l ヽ ﾄ､ ＼ヾ'j /／/ / l / ｌ´ | |l ＼ ｀"'' ー- .,,_
X ＼ﾍ ヽ / ´/ ,′ .l | | |＼ ｀ヽ、
／ ＼ | ＼ ,. - /／/ / | | l l ｌ ＼
〃 | | ト / /;′ | ｜ ｜ l ', ｀" 'ー‥‥－ '´
″ | ｌ | ＼ ＿ _ イ / ／,ｲ /| ! | ｌ ''
∥ ｜ | |. /ﾊ 爪7/ i'／}:| '::| | ├…- 、＼
∥ /｜ ｌ ｜ ,r/ l !r'小:ﾑｲ':..::..::| |:::| li |::.::..:... ＼ ＼
ヾ/ ｌ l l j:.ﾑｲ,,ゞll:||/ ｨ::.::.::.ﾍ |/:| |l |::.:..:..:... ＼ ＼
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iｌ ', .Y..::..::..:..:..:}::}ﾘ| |:..::..:{{|::.::ﾄ､ ＼＼ ＼ ＼::.:..:..:..:..:..:...ヽ＼
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316 名前：◆NBJATnhEhM[] 投稿日：2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988 [57/78]
私はその考えを無視した。
もしも町ができたら、サクラの墓をここに移そう。 私は自分の庭にそれを移したい。
町の中央には何を建てるべきだろうか？ やはり教会だろうか。
それとも今のまま、すなわち何もない広場にしておくべきなのだろうか？
その場合、聖人の遺体は広場の真下に埋めるべきなのだろう。
しかし一体どこからそれを手に入れてくればよいのだろう？
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317 名前：◆NBJATnhEhM[] 投稿日：2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988 [58/78]
あれこれと喋り続ける私の話を聞いて、水銀燈は呆れた。
「馬鹿な話をするのはよしなさいよ。」
「馬鹿なもんか。 私はただ落ち着いて生きていける場所が欲しいだけなんだ。
自分を迫害しない者たちを傍に置いておきたいだけなんだ。
そのためになら別に死んだって構わない。」
「矛盾しているわよ。 町で暮らしたいはずなのに、そのためになら死んでもいいだなんて。」
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. ノ' ‘, l .l ｉ ｣.|_l _厶j l ./ | 厶| | ,ﾊ|
‘, l i| ｉ i/| 从{ l__,厂!| jﾊ _厶rl /i} i} | .′
､| ,ﾊ l ｌ |ｉ,|_.厶斗j/i厂jハ ﾉ }八ぅ'少'ノi ｜ /
.′ j/从 ｜ 弋|人_う'少′ }／ ｉ ¨¨´ l /}/
. / / //,八＼l、 '＼ ｀¨¨¨´ | j./ ′
/ j j///ｉ }>､_＼ 、 ＼ } /
/ ／ｉ l///| |/,|77介､{｀¨⌒ , ′
ノ'´ ､l///| |/,|//|ｉ川＼ __, ， ／
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｀ ｀７⌒7//,′ ＼丶. -rく .
ノｨi ,/// ｀ ミー‐‐ ､,｣ .ハ i
.ノ'∨//{, ￣￣｝}ﾘ′ } l
/// ＼_ { {iｈ j |
{// {爪,|rっ { |
318 名前：◆NBJATnhEhM[] 投稿日：2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988 [59/78]
私は自分の町の住人第一号として、シルヴァのことが欲しくなった。
両腕のない女。 綺麗な脚をしたあの女に従者をつけてやりたい。
そうしてもっと便利な暮らしをさせてやりたいものだ。
私は水銀燈を無理やり引っ張ってシルヴァのところまで行く旅に同行させた。
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319 名前：◆NBJATnhEhM[] 投稿日：2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988 [60/78]
シルヴァは以前と同じ場所で同じように暮らしていた。
相変わらず優雅な仕草で足を動かし、我々に酒を注いで振る舞ってくれた。
私は黒い剣についてお礼を言い、おかげで数々の魔物たちを倒し、人々から感謝されたことを言って聞かせた。
シルヴァはそうしたことにあまり関心がないようだった。
私は思い切って、我々の新しい町に来てくれと切り出してみた。
自分たちの町を守護する神として一緒に暮らしてくれないか。
新しい町には、我々のような変わり者でも受け入れてくれる者だけを集めたいと思っている。
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320 名前：◆NBJATnhEhM[] 投稿日：2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988 [61/78]
シルヴァはその話に心を動かされたようだった。
我々は村まで行き、シルヴァを連れていくと宣言した。
村の者たちは憤激して我々を取り囲んだが、我々はただ頭を下げて頼み続けた。
最後にシルヴァがこう言うと、村の者たちは沈鬱な表情を浮かべて押し黙ってしまった。
「私はこの村のために二本の腕を失った。 さらに十五年も神としての務めをおこなったからには、
もはやこれ以上ここに留まる義務はない。 願わくば次の神は決闘などではなく、
村の者たちの協議によって決めるがよろしかろう。」
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321 名前：◆NBJATnhEhM[] 投稿日：2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988 [62/78]
我々はシルヴァと共に村を去った。
村の者たちは追ってこなかった。
私は途中で貧しい村に寄ると、シルヴァと共に品定めを行い、彼女のための従者を買ってやった。
それは痩せぎすの小さな娘で、母親を遠い昔に失っていた。
「これから行く町には何もないわ。 厳しい場所よ。
だからこの人をあなたの母だと思って慕い、尽くしなさい。 その限りにおいて、あなたは自由でいられるわ。」
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322 名前：◆NBJATnhEhM[] 投稿日：2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988 [63/78]
さて、さらに多くの住民が、町の壁の外にある農地を耕す人々が、特に必要である。
私はその村の者たちから様々な噂話を収集した。
中にはこんな話があった。
北の方の貴族とその土地についてだが、最近大きな地震が立て続けに起きて、畑は荒れて、逃げ出す領民もいるらしい。
これは農民たちを獲得するチャンスかもしれない。
我々四人はそう考えて、噂された土地に向けて出発した。
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323 名前：◆NBJATnhEhM[] 投稿日：2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988 [64/78]
たどり着いた場所は穏やかな気候の、住みやすそうな土地だった。
視界いっぱいにどこまでも麦畑が続いている。
しかし一部は荒れて、耕作されていない状態のようだ。
心なしか、辺りで働いている農民たちの顔も浮かない。
我々は退魔師を名乗って領主の城を訪ねた。
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324 名前：◆NBJATnhEhM[] 投稿日：2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988 [65/78]
謁見はすぐにかなった。
噂の通り、領主は最近地震が頻発するので困っているということを訴えてきた。
何か原因はないだろうか。 調査してほしい。
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325 名前：◆NBJATnhEhM[] 投稿日：2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988 [66/78]
我々は領地を見て回った。
なだらかな丘陵の続く、畑と民家以外には何もない土地である。
何も怪しい物は見当たらない。
そこで私はシルヴァに言われて、一匹の兎を狩ってきて、手渡した。
シルヴァは呪文を唱えると、ナイフを使って兎から心臓を取り出し、それを火で炙って細かく切断した。
さらにシルヴァはそれをその場に撒くと、その上に兎を縄でつるし、くるくると回して、静止するまで待った。
その間にさらに呪文を唱え続ける。
「導け。 殺され人よ、私を導いて心臓を売り渡せ。 川を渡れ。 何度でも川を渡れ。」
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326 名前：◆NBJATnhEhM[] 投稿日：2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988 [67/78]
回転していた兎が止まった。
兎の頭はちょうど東の方を向いていた。
それで我々はその場に兎を埋めると、東の方へ向かって歩いて行った。
三日三晩、野宿をしながらひたすら徒歩で進んだ。
すると大きな岩に出会った。
ちょっとした丘ぐらいはある、巨大な岩だ。
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327 名前：◆NBJATnhEhM[] 投稿日：2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988 [68/78]
夜になったので、我々は岩に登り、その上で眠った。
すると四人は同じ夢を見た。
一匹の美しい角をした鹿が現れて、こう言った。
「その昔、領主殿の治める土地がもっと広く、この場所まであった頃、私は耕作に邪魔であるという理由で
領民たちに引っ張られて隅の方に追いやられてしまった。
そうして今私は忘れ去られて、遠い地に見捨てられている。 それで私は最後の力を振り絞って
どっすんばったんと転げて地震を起こし、自分のことを訴えているのだ。」
_＿ .. -─-､
.. -‐─- ´￣ ヽ.
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|i .′: 、 |l/ ∧
|ﾄ./ : : ヾｰ/／ : ∧
∨l! ,′ : //´ j ミ
ヾ: i : // .ｿ ﾐ
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l｀ヾゝ...: ! (_／ .″ ,,.. -‐､'´ ∨ ヽ
弋_7ﾉ.::.. ゝ..r‐-'ヽ i""´ ヾ ) ヾ. }
i:::::.:.... _):::| | / } ..::/ i :
∨ー'' ｀{::::| / .′ /.:::/ ! ..:i
.∨:. |::::ゝ. i ./.:::/ |...:′
∨:.. |｀ヾ.ｉ |｀ヽｰ-､.:/ |.::i
.∨..::::ﾉ | |へ.. ｀ヽ、 /.:::|
`ｰ” ./ ハ、 ￣ /.:::ハ
/_人_,ﾊ ｀¨ ´
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328 名前：◆NBJATnhEhM[] 投稿日：2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988 [69/78]
我々は領地に戻り、領主にこのことを報告した。
そこでその岩を割って破壊してしまおうか、それとも苦労して岩を運び、
畑のすぐ傍まで持ってくるべきかということで議論になった。
しかしその場で結論は出なかったので、領主は何人かの農民を呼んで同様に議論をさせた。
すると結論は、岩を運んでくるのが良いが、それだけでは不安なので、運んできた後もう一度意思疎通を図ってもらい、
何をしてほしいか聞いてもらいたいということだった。
ｌゞゞゞ| ＿＿ ｌゞゞゞ|
ヽゞゞ| /＿＿ ヽ ヽゞゞ|
＿＿＿＿＿＿＿__.ヽｰ|. .:< 王 / ,| ＿＿＿＿_,ヽｰ|＿＿＿＿＿＿＿
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＿＿!＿＿ ＿＿l_ /l !l! と| ヾ丶´;|.;.＿i＿＿ !_ /li l＿i＿＿ !＿i＿＿ !
＿＿i＿＿＿.i .／〈 l!／ Π.| ﾉ;; ヽﾑ: ／ ／〈 ｌ | ／|＿＿i＿＿
／ ／ ／ 〈_〉.しん～´ｰ' ／ ／／ .ｰ‐ ／／
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|二二二 ,ｌ===ｌ.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.|￣￣￣￣￣|／
んソ[ｌﾟ):.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:／￣￣￣￣￣
/ギ~ｌ).:.:.:.:.:.:.:.:.:.:／
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／:.:..んγ～ゝ..::.:／
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329 名前：◆NBJATnhEhM[] 投稿日：2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988 [70/78]
三週間ほどの時間をかけて、領民たちは岩を運んできた。
そこで我々は領民の中から一人を選んで、それは処女の若い娘だったが、岩の上で寝てもらった。
翌朝、娘は夢でさずかった託宣を告げた。
「これからは一年にいちど、私を囲んで踊りを踊ってほしい。
そしてその晩は若い娘に岩の上で寝てほしい。 そうしたら私は地震を起こすことなく、三年後に自ら命を絶とう。
その証拠として三年後、岩は真っ二つに割れるであろう。」
領主と領民たちはその言葉に納得し、事態は解決された。
( ;; ;: ） ⌒ヽ （ . ;.; .; :.: ⌒) ..;.;:⌒):.ノ
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ｒ´`; `ｰｰ⌒‐-､__｀ー､__ ヾ ヽ、 / .:;ｌi`ー-､
一⌒) ｀ﾞ´ ￣￣ ＼.:ヽ、 .／;;;ノ⌒ー-､;`ー-､_
::.:､::.｀ヽ＿ _.ィ´ ｀ヽ. ヽ .:V .;／ ￣￣⌒ヽ
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330 名前：◆NBJATnhEhM[] 投稿日：2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988 [71/78]
さて、私は領主と交渉し、一部の領民たちに我々の町まで越してきてほしいと頼んだ。
そこで領主はこう答えた。
地震によって破壊された耕作地の者たちを連れていくといい。
こうして我々は五十人ばかりの農民たちを得て、新しい町に迎えることになった。
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vymy vymyvvvymy vymyvvvymyvwymyvymyvyvymy vymyvvvymy vymyvvymyvy
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331 名前：◆NBJATnhEhM[] 投稿日：2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988 [72/78]
我々は農民たちを連れて、自分たちの町まで戻ってきた。
新しい住民を迎えたからには、やるべきことがあった。
まず新しい町の復興を開始する儀式と、そして私と水銀燈の二人に影がないことの説明である。
シルヴァはすでに我々二人に影がないことに気が付いていながら何も言ってはこなかったが、
農民たちは気が付けば必ず我々を畏怖するに違いなかった。
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.: .:.: | | / / └‐' __| |__|＼∧_[]／￣ | ヘ| ＼＼ //､ <
.:.:.:.: | | | | |￣| | |_／ ＼|__| ／＼ ∧／ xく＼ ｀ヽ_xﾍ // ＼ ＼
.:.:.:.:.:| | | | .|.: ｜ ＼ > > |＼／| /∧＼|] >>＼ ∧｀´|＼. // / ＼
.:.:. :. | | | | |.:.:| ∧_ ／／／￣>＼|／ | /＼＼|＼／| ＼|／.＼∧ // / /＼
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.:.:.: .: | | | | }.:.{ ￣/ { ／ | | |..|| |/｀`7x､ ＼| 「「|_| ＼__∧＼|_/∧＼,∧/ ./
.:.:.:.:.: | | // {.:.:{ { ∧ __＼ ＼|/./| |＼/ ／| ￣,，＜＞ /∧／..|｀´|＼l_ﾉ| /
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.:.:.:.:.:. | |: : : :| l | | } }.:.:.l TTT|_丁丁| /∧ | ｒ‐┐ ／￣￣￣￣ |¨|´|／／>＼|/ {} ｀ヽ､
.:.:.:.:.:.:.| |: : : :| | 匚| |匚] ＼| l | | _└┘) |¨:|/ |_|_|｀`'' - ⌒ｰ- __ ／＼|_,|‐zz:､/ / (_)
.:.:.:.: .: | ￣￣ | / / ＿ノ￣￣ | ∠∧ （ | | |￣| ｀`''ー／＼ ／／ヽ二| ｀¨¨二|__|─-
.:.:.:.:.:.: | |￣｀i ￣／ ／ ∧<￣｀ |===/( ￣￣￣ 二二二二二二二 |＼ ｀'く ／ |／ __/ /＼
.:.:.:.:.:.:.:| | .|￣￣／厂|∧/ }＿/ /￣.∧￣| /＿=======＿//￣＼＼ / ／ ／ |¨丁丁ｉＴi￣>
__〉 〉_ | |￣￣￣￣｢｢ ノ ヽ∧ |￣| | |ＴＴＴ|ＴＴＴ|ＴＴＴ|二二 |＼|／ xく__>二二￣-┘／／
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￣￣￣ ) )￣￣￣｢三三三三三三三三∧￣￣| /￣ﾞ| |￣￣￣￣￣ ＼＼￣＼＿＼__ ／ ／￣￣∧
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332 名前：◆NBJATnhEhM[] 投稿日：2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988 [73/78]
まずは死んだ町を復興する儀式からだ。
町には命があり、それを呼び覚ましてやらねばならない。
我々はすべての通りを、すべての住民でもって歩いて回った。 道は町の血管である。
我々住民は全ての道に挨拶をし、踏みしめて、この町を血の通ったものにしなければならない。
シルヴァが先頭に立ち、胸をはだけて唱えた。 「私はこの土地で生まれていないが、この土地に身を沈めるであろう。
この心臓が鼓動をやめる時、この心臓は町の下に埋められるであろう。」
我々もそれにならって、男も女も裸の胸をさらしながら、歌を歌いつつシルヴァの後をついて歩いた。
f,} ｲ { r.､ ハﾟヽ
ﾉ ヽﾉ } .} ｀´
ヽ / ‘. .{
＿＿ _>=ミ､ _ノ ヽ_, ィ
_ ｀ヽ _r- ､ ／￣￣｀ヽ ＿ __ >イ´:
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ヽ ＿⊥ ＿_ ＞^＼ /:::::::::::::::::／ ア:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.｀ｧヽ::
`ーイ／￣｀ヽ r-､ __r､ , ＜:.:.:.:.:ヽ ＼:::::::7::::::::::::::::::/ /:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:ハ ヽ
く:::::::::::::::::‘.__ 厂Yヒｧ-- ､ とア＼ ヽ___>x ./:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.}. ヽ/::::::::::::::::::/ /:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:!
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333 名前：◆NBJATnhEhM[] 投稿日：2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988 [74/78]
最後に中央の広場にたどり着くと、シルヴァは私と水銀燈を真ん中に置いてこう宣言した。
「インと水銀燈。 この二人こそがこの町の新たな建設者である。 彼女たちは聖遺物を埋める代わりに、
自らの影をこの中央の広場の下に埋めた。 それで彼女たちには影がないのである。
また、この広場はこの町の心臓である。 さあ、我々はここで共に食事をして、お互い友達になろう。」
我々は連れてきた羊を屠り、切って焼いた。
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丶､＼ - -二三込、: : : : ノ'´: : : ): : :::／ ＿ '´ . . . : ノ:;.:,:;.:,: : : : : : : : : : : : ;:;:;:;:.:/ ／ ／
｀ ＼､√⌒¨¨¨⌒⌒＞｡,(;:::.: : :ノ;:;:;:;ノ／;:;:;:;〉 ｒ勹 ＿ノし'":::Ξ;:;:;:;:;:;:;:;::;.:,: : : : : : : : : ／ _‐ 'ﾞ
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334 名前：◆NBJATnhEhM[] 投稿日：2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988 [75/78]
宴は一晩続いた。
シルヴァが配ると、不思議なことに少量の肉と酒でも腹はふくれ、頭は酔い、とても良い気分になれるのだった。
驚くべきごとに、五十人の腹はたった三匹の羊と一樽の酒で十分に満たされた。
/ ! ,,:::::::::ヽ ヽ .| ! / ,..::::::::::::::ヽ i . !
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:::ﾚ '⌒` j! }.! | ! | / i! '⌒ ,_ / γ'´_｀ヽ .ｊ ｲ;;;;;/ ,,,,,,,, ヾ:::::::::::::::::::::|
!´,z- r , 、 ,.ｲ!. | | ﾄ,,ヽ ' ｀ヽ,i' }' ´ ヽ /,.::≦::::::::::::::::::::≧ 、 __ヾ::::::::j
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ヽ、 ヽ - ,ｲ/ ,,,,,,.............!- 、 ! 込、ゝ- '′ ,ィ } ,ｨ':::::::::::!::::::::::ヾ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ
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335 名前：◆NBJATnhEhM[] 投稿日：2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988 [76/78]
翌朝から農民たちは仕事にとりかかった。
彼らはおのおの好きな民家を家とさだめて、そこから耕作地に出かけて畑を耕しはじめた。
それを見て、もっと多くの農民や外と交易をする者たちが必要だなと私は感じた。
これからさらに住民たちを募集する旅に出なければなるまい。
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ﾅﾒ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::〈:巛;〉:::::::::::´:::::::::::::::::::::::::::､<i})r:::::::::::::::::::::::::::::::(桂)::::::::::::::::::';(fj);:::::::::::::::::::::::::(k
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圭Yﾀ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::;:;::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::､{羊 })）}:::::::::::::::::::::::::::::::::::::
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336 名前：◆NBJATnhEhM[] 投稿日：2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988 [77/78]
また、シルヴァは自分の従者をイェネと名付けた。 古い名前を捨てさせ、新たな名前を与えたのである。
私はイェネがシルヴァの着替えを手伝ったり沐浴を手伝ったりするのを眺めて、満足した。
二人は仲がよく、イェネは本当の親のようにシルヴァを慕っていた。
/ ヽ ＼ ＼
,' / / l ＼ ヽ
! / / / ,' | l ﾊ ﾍ､ヽ､_,
| ! l ｌ / / ,ｲ ! i ! l ヽ ',｀￣
l | l ｌ ,/ 〃 ,/ /│ l j l│ ! l
ノ | ! │ | /_／/ ／/ / ,' ∧ / | / j ｌ│
ﾉ l ｧ| |尢/‐=乞t/ ／ /∠ﾆ｢厂! / ,/ / ﾘ
ｲ 八{´ｌ !|<f{矛:下 ' ｲ孑代ﾌ.ｊ/. / /
Vﾊ | r';;z j r';;zﾘ /}, '/／
ヽ ', | ￣ , ￣ ﾁ' /
`ﾍ lヽ _ 厶 ./
', {.代ﾄ､ , イ | /
＼_'i| ＞ ､ _ , イ/ V ｌ./
／ ヽj {｀ヽ ′
_ ／ ｢´ ヽ} ＼
_, -‐ ´ l‐--‐､ ＿ -‐ | ` ｰ- ､
. r＜＼＼ ヽ '´￣ ___ ｀ヽl| / /ヽ
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./ ヽ. ＼＼ ∨￣ ｀ヽ | / / / l
{ ヽ ＼＼ ヽ / / / / │
337 名前：◆NBJATnhEhM[] 投稿日：2019/08/25(Sun) 11:51:30 ID:0c36a988 [78/78]
そうだ、この町にも新たな名前を与えねばなるまい。
私はいくつかの案を考えて、水銀燈に提示し、議論をした。
その結果音の響きが良いということで、新たな町の名はアルト・ヨークと決まった。
i
|
八 ⅰ Ｉ
ⅰ |ｰ|＿____ ⅱ ﾊ ∧
＿_|＿＿ 八 ＿__|￣| {_八 γ丶 ⅰ ロ .|i |i ＿
∧,_______|二|_＼＼ | ＿＿_／| | ∧_V∧_/＿＿「丁￣|∧￣Y￣| |─､_ｖ─､ 盂...∧_| | |i_|i／＿＼
. _..|¨:|＼＿_|＿∧|￣| /＿∧¨|¨:| |ﾍＺ7ZZZZZ癶ＺＺＺ癶~丁T T'''T￣| /￣/¨/＿/￣ ／`|├|_|¨癶＿,|::::|Ｉ Ｉ Ｉ Ｉ Ｉ |/￣
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｀:､｀:､｀:､｀:､｀:､─‐Ｌ |Y´ ｀Y|Y´ ｀Y Y´ ｀Y Y´ .｀Y Y´ .｀Y Ｙ Ｙ Ｙ＾ＹＹ＾Ｙ ＹＹ^i| ＼ 爻爻爻
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,:",:",:",:"(;';';';';';');';';';';';';')､､､､､ {i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:}|.:.:.:.:.:.:|⊥⊥＿＿/ﾍ￣ﾞ＼|⊥ﾐﾐ￣￣|￣￣ﾞ|;';';';';';';'爻爻淡淡爻爻爻爻淡淡淡
从从｀:､｀:､;';';';';';';';';';';';';';';';';';';';'乂i:i:i:i:i:i:i:i:ｿ｀ : : : : :爻/＿___∧＿',_____＼ﾐﾐﾐＩ Ｉ Ｉ | Ｉ Ｉ Ｉ Ｉ|'⌒;';';';';';';:;.:,:;.:,:;.:,xX爻爻淡淡淡淡
从从从从;';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';';'｀Ｙi'"~ : : : : : : :爻刈ⅰ |_..|Ｉ Ｉ | Ｉ Ｉ Ｉ |ﾐﾐﾐﾐ￣乂;';';';';');';';';';';')xX爻爻淡淡淡淡淡淡淡淡
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淡淡淡淡淡淡淡淡淡爻淡淡Ｘx : : : : : : : : : : : : 辷i;';';';';';';'`iiﾞ;';';' : : :爻爻爻爻淡淡淡淡淡淡淡淡淡淡
淡淡淡淡淡淡淡淡淡淡淡淡爻爻爻Xx : : : , : :'ﾞ : : : : : : : : : : : : : : :爻淡淡淡淡淡淡淡淡淡淡淡
淡淡淡淡淡淡淡淡淡淡淡淡淡淡淡淡淡爻Xx: : : : : : : : : : : : : : : : ｖｉｖｉｖｉｖｉｖｉｖｉｖｉｖwWW爻淡淡淡淡淡淡淡淡淡淡淡
淡淡淡淡淡淡淡淡淡淡淡淡淡淡淡淡淡淡爻ﾝ: : : : : : : : : : : : xxヾ;:ﾐ:ヾ;:ﾐ:ヾ;:ﾐ:爻爻爻爻爻炎炎淡淡淡淡淡淡淡淡
淡淡淡淡淡淡淡淡淡淡淡淡淡淡淡淡爻爻爻爻x""""""""""""ヾ;:ﾐ:ヾ;:ﾐ:ヾ;:ﾐ:ヾ;:ﾐ:爻爻淡淡淡淡淡淡淡淡淡淡淡
淡淡淡淡淡淡淡淡淡淡淡淡淡淡淡淡淡淡淡爻爻Xx:;.:,:;.:,:;.:,:;.:,:;.:,:;.:,:;.:,ヾ;:ﾐ:ヾ;:ﾐ:ヾ;:ﾐ:ヾ;:ﾐ:乂爻爻淡淡淡淡淡淡淡淡
To Be Continued．
.
338 名前：普通のやる夫さん[sage] 投稿日：2019/08/25(Sun) 17:31:43 ID:9baafc34
乙
339 名前：普通のやる夫さん[sage] 投稿日：2019/08/25(Sun) 20:00:09 ID:b62357e7
乙
今回も読み応えあった。
この街が旅の終わりになるのだろうか。
340 名前：普通のやる夫さん[sage] 投稿日：2019/08/25(Sun) 23:10:23 ID:6a2dcfd3
乙でした！
大昔の神話みたいだ
341 名前：普通のやる夫さん[sage] 投稿日：2019/08/25(Sun) 23:56:25 ID:84daecbe
乙！
342 名前：普通のやる夫さん[sage] 投稿日：2019/08/26(Mon) 05:32:18 ID:d7b917d4
乙
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この場にて御礼申し上げます
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17/12/5追記
遂に支援絵を書いていただけました！
トップにどんとなんかすいません
◆rG7rDhiHxM様、ありがとうございます！
RSSやお知らせなど
まとめた各作品の作者様に向けて
まとめ記事本文や周辺について何かご要望等あれば、遠慮せずメールフォームにてご一報ください、よろしくお願いいたします。
8/18 追記
IEやchromeで確認されていたAAズレですが、記事側の
DirectWriteを無効にしたことで、ずれないようになったと思います。
これに関して、ご指摘等ありましたらコメント等よろしくお願いいたします
劇場風やる夫まとめ様のこちらの記事を参考にいたしました。
http://theateryaruo.blog71.fc2.com/blog-entry-302.html
本当にありがとうございます
9/12 追記
patchForAAによる文字滲みの件ですが
こちらのスクリプトで解決したかと思われます。
https://github.com/keage/KGIndirectWriter
スクリプトを提供してくださり、相談にも乗っていただいた
kæge様
本当にありがとうございました。
17/12/5追記
実験的に話数ごとではなく作品毎のカテゴリランキングを実装しております
挙動をちょっと様子見です。
開発、提供していただいた五味様
アドバイスいただいたやる夫ガイド様
誠にありがとうございます
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